尾上製作所はバケツなどのトタン製品、園芸用品、湯たんぽ、レジャー用品など幅広く取り扱う日用品メーカーです
尾上製作所とは
役立つ豆知識
モグラの話
1.モグラと風俗
 
モグラ
【もぐらうち】
  旧正月の14・15日は小正月と呼ばれます。この日、農作物を荒らすモグラを追い出す行事として、子供たちが棒や束ねた藁で土を叩きまわるのを「もぐらうち」といいます。夜の「どんど」と合わせて楽しい行事でしたが、今はほとんど行なわれていません。
  モグラは本当に害獣でしょうか。イギリスの『草地の生態と野生生物管理』という本には「モグラの最も大きい害は土を盛り上げるために草刈り機の刃が傷むことである」と書いてあります。それよりも掘り返しによる利益がはるかに多いでしょう。もし害を与えるとしたら、西日本のように水田の多いところよりも、長野や関東の畑作地域こそ被害を受けるでしょうが、この地方は「もぐらうち」がなく、同じ行事が「鳥追い」になっています。さらに、モグラの出ていない旧暦の小正月、地方によってはその前の節分に「もぐらうち」をするのも納得できません。
  兵庫県から山陰にかけてはこの行事が「きつね狩り」となっています。日本の民俗学の先駆者である柳田国男氏の出身地の北隣り、兵庫県神崎町で採録されている、この行事の唱え言葉は次のようなものです。「わりゃなにそうろう」「若宮祭とて、きつねがえりそうろう」「もう一声しようもうしよう」「ワイワイワイ」
  神戸新聞社発行の『兵庫探検・民俗篇』には、このほかいくつもの地区の唱え言葉があげられていますが、神崎町が最もととのっています。つまり、宮中行事にもなっている秋の「亥の子送り」と同じく、山の神を送り出す神事なのです。
  京都、滋賀そして東北の一部では「なまこひき」があります。唱え言葉は、「もぐらどん内にか、なまこどんのお通りじゃ」「オングロモチ(モグラ)送った。マンマコドンのお祝いじゃ、ドンドコドン」このとき引いてまわるのは本物のナマコのこともありますが、だいたいは棒や束ねた藁です。やはり古い行事で、束ねた藁を用いるのに「嫁たたき」があります。花嫁のところへみんなで押しかけ、藁でおしりを叩いて出産を祈るのです。今でも残っている地方もあるといいます。「もぐらうち」のように小正月に行なうところもあったようです。さきの「マンマコのお祝い」はこれと混同したのではないでしょうか。
  世界中、豊作をつかさどる大地の神は、性と出産もつかさどっています。そのお使いがキツネであり、イノシシであり、そしてモグラであったと考えるべきでしょう。
2.モグラの種類と名前
【アズマとコウベ】
 同じ種類の哺乳類でもその体つきを比較すると、北のものほど大きい、島のものは小さい、山地ほど小さいなどの一般法則がみられます。モグラ類も一時期はコモグラ、ヤクシマモグラなど10種類以上に分かれていましたが、日本中を精力的に調査した阿部永氏によって、小型のヒミズ二種類と大きいモグラ類四種に整理されました。そのうち、最も普通に見られるのが、アズマモグラとコウベモグラです。
  アズマモグラは、その名のとおり東日本にいます。が、西日本でも南九州一帯と中国、四国、近畿の山地にもすんでいます。西日本の平地はコウベモグラで占められ、平地でのアズマとの境界は伊豆と新潟を結ぶ線です。境界地域の一つ、木曽谷では昭和34年から48年の14年間に、コウベモグラが約3キロ北進し、アズマモグラを圧迫していることがわかりました。しかし、同じ接触地点でも天竜谷ではこの間にはほとんど変化していません。
  化石から推定すると、コウベが日本へ現れたのは2〜3万年前です。朝鮮半島から渡ってきたとすると、北九州から本州中部まで平地をたどって、約1000キロをゆっくり東進したことになります。そうすると、木曽谷の北進は少し速すぎはしないでしょうか。
  阿部氏は、阿蘇火山帯でさえぎられている南九州にアズマが残っていること、天竜谷や富士、箱根ではほとんど変化がみられないことなども考えて、木曽谷でのコウベの進入が速いのは人間による耕作で、豊かな土地が作られているからだろうと推測しています。トンネル堀りの名人であるモグラでも、溶岩や火山灰の砂ではなかなかうまく掘れないでしょう。土ができるとミミズが増え、それを食べるモグラも増えます。そして、さかんに穴を掘って生活域を広げていきます。ミミズやモグラは土をつくりますが、その土がまた彼らの生活を支えているのです。縄文以後、西日本の平地はどんどん開拓され、人間の手で土を作り出しました。コウベモグラはその地からを借りて、その後に急に東進をはじめたのではないでしょうか。眼につかない野生のけものの生活にも、人間とのからみ合いがあります。

【モゲラ?
  日本のモグラを世界に紹介したのはシーボルトです。長崎を追われるまでの間に日本各地で集めた標本は、ヨーロッパのそれぞれの専門家に渡されました。哺乳類の研究を担当したのはテミンクです。これらの研究をまとめたのが『シーボルトの日本動物誌』で、モグラはその第一冊(1842年)に発表されました。テミンクは、日本のモグラがヨーロッパのモグラであるタルパ・エウロバエアとはすこし違うということで、タルパ・ウオグラという名をつけました。タルパはラテン語でモグラという意味、ウオグラはWOGURAで、おそらくMOGURAと走り書きのメモでもつけてあったのを読み間違えたのでしょう。
  その後の研究でヨーロッパのモグラとはかなり違うということがわかって、タルパ属へ入れておくのは無理となりました。そこで、ボメルという学者が新しい属を作りました。その名がモゲラ。怪獣映画が登場するずっと前ですから、これも書き違えです。WをMになおしたのはよかったのですが、あらためてUとEを間違えました。しかし、学名というものはいったんきめると変えられません。現在のモグラの名は、あくまでもモゲラ・ウオグラです。
  モゲラ属にはほかにもう二種が入れられています。明治になってから、神戸のスミス氏が採集した標本はそれまでのウオグラと違っていました。そこで新種としてコベアエと名づけられました。ウオグラのほうは日本名ではアズマモグラといい、コベアエはコウベモグラといいます。この二種が日本を東西に住み分けているのです。その境界になる新潟の一部と佐渡には、また変わったモグラがいることがわかったのは昭和8年でのことです。徳田御稔氏に献名されて、このモグラの名はモゲラ・トクダエ、日本名はサドモグラです。

【小さいモグラ】
  日本にはモグラ科の動物が六種います。そのうちのヒミズとヒメヒミズは他の4種よりも小さく、尾が比較的長いのです。また、土を掘る手のひらの面積も体に比べて小さくもあります。完全にトンネル生活に適応したなら、手のひらが大きく、尾は退化するでしょうから、ヒミズやヒメヒミズは、より原始的な体つきといえるでしょう。実際に彼らはあまり深くはもぐりません。この両者を比べると、ヒメヒミズのほうがさらに原始的です。
  このヒミズ類は平地にいません。山地とくにヒメヒミズは1500メートル以上の高山にすんでいます。北大の阿部永助教授は「後から日本へ侵入したモグラ類に圧迫されて、山地にだけ生き残っているのだろう」と考えておられます。阿部説によると、一番古くからいたのがヒメヒミズ、ついでヒミズ、ミズラモグラ、アズマモグラで、最後に北九州付近から進んできているのがコウベモグラとなります。
  日本でただ一ケ所、ヒメヒミズが800メートルぐらいの低い所に住んでいる場所があります。それは富士山麗青木ケ原付近です。ヒミズはまだそれより低い所にいます。ここのモグラ類は今泉吉晴、忠明両氏によって調査されました。
  この地域はアズマモグラとコウベモグラの接触帯で、安部説による両者の競合が今進行中のはずです。ところが調査の結果は、モグラ類がいなくてヒミズがまだ残っていたのです。さらに詳しく調べると、富士山の南側は三島から御殿場付近までコウベモグラがいますが、その東の箱根にはモグラ類がいません。東へ越えて小田原はもうアズマモグラの世界なのです。このモグラ類の空白地帯は富士山の北へは相当広がっています。
  そこで考えられたのが、富士火山帯の爆発によって溶岩が流れ、モグラ類の生活する土をなくしてしまったことです。西からアズマモグラを圧迫してきたコウベモグラはここで東進をはばまれました。しかし、地表近くだけで生活できるヒミズ類は、その後できた表土でも暮らしてゆけるので安心して生きているのです。
  ヒミズ、ヒメヒミズとも世界に一属一種、日本の特産の動物です。
3.モグラの目
【退化論】
  モグラの仲間は、いうまでもなくトンネル生活者です。光のない深海や洞窟に生活する動物ではしばしば眼は退化しています。日本には六種類のモグラがいますが、すべて目は完全に皮膚に覆われていて、外に開いていません。適者生存説によると、ごくわずかの違いしかなくとも、少しでも環境に有利な性質をもったものが生き残り、子孫を増やしていくので、だんだんとその性質が顕著になり、適応した形態が生じてくるといいます。モグラの体はズンドウ型。また前足は短く、手のひらはシャベル状で外を向いています。そして耳たぶがなく、尾が短いなどの点では、トンネル生活に適した形をしています。
  眼の退化についても適応進化といえるでしょうか。モグラは地上性のトガリネズミ類から進化したのは確かです。地価へ生活を移したとき、眼が小さいほうが穴を掘りやすいでしょうか。暗闇の中ではおそらく何の関係もないか、むしろ、少しの光でも利用できるように大きく発達するのが本筋でしょう。
  ある人がいうには「泥が入りそうになるたびに眼を閉じなきゃなるまい。小さければ、それだけそのエネルギーがいらんし、開いてなければ閉じなくてすむ」。他の人がまたいうには「何かの機会に明るいところへ出ると眼が強い刺激を受ける。閉じてりゃ、刺激を受けないよ」。
  ラマルクの用不用による進化説が否定されてしまうと、こちらもモグラなみに手探りで理屈を考えねばなりません。

4.モグラは害獣か?
【土を作る】
  モグラの穴を直径5センチ、一日20メートル掘るとしておきましょう。このモグラの生活空間を30メートル四方、地下1メートルまでとすると、彼もしくは彼女の活動範囲は900立方メートル。一年間に約15立方メートルの土を掘り返しますから、60年に一度の割りで、この範囲の土がかきまぜられていることになります。
  作物を育てるには土を掘り返すことが大切です。植物には肺やエラがありませんから、生きるために必要な酸素はすべてそれぞれの部分が直接に取り入れます。土をかきまぜると土の粒の間に隙間ができ、そこにしみこんだ水や空気が根に活力を与えてくれます。アスファルトやコンクリートで表面を固めた歩道に植えられた木に、元気がない理由のひとつもここにあります。
  土壌改良工事という名で、ブルドーザーやパワーショベルを使って、田んぼの土を掘り返しているのをご覧になったことがあるでしょう。この工事の費用はどれくらい必要かはわかりませんが、それを無料で黙ってやってくれるのがモグラ君です。1ヘクタールに30頭のモグラ君がいれば20年に一度は土壌改良工事ができる計算となります。
  ミミズはモグラ君の主食ですが、掘り返し作業では有力な協力者です。その上、ミミズは土を食べて糞として出してくれますので、化学的にも物理的にも最良の土ができます。モグラ君よりも体は小さいですが、住んでいる数が多いので、仕事の量はモグラ君以上に働いてくれます。両方が一生懸命動き回れば、十年に一度の土壌改良工事ができるはずです。